噛みつきについて
0歳、1歳、2歳の小さなクラスの子どもたちも、担任や園生活のリズムに慣れるにしたがって、落ち着いて過ごせるようになってきます。その反面、遊ぶ時には活発に自己主張し合う場面も増えてきて、おもちゃなど物のとりあいや座る場所の奪い合いでトラブルになることもよくあります。
言葉で思いを表現できない1、2歳児では時に押し合いや叩き合い、また噛みつきやひっかきなど体で直接向かっていく行動になりがちです。
特に噛みつきはくっきりと歯形が数日残ることからも、噛まれた子どもの保護者の方にはショックが大きく、しかも2回、3回と続いた時には本当に心が痛む思いで、さぞかし腹も立つことだろうと、私たち職員もお詫びを言いながら辛い思いをしています。
また、噛んだ子の保護者の方にはさらにいたたまれない思いでおられることを考えると、園としても何とか噛みつきをなくすために、できうる限りの最善の手だてをしていかなければと努力しているところです。保育のありようや、園生活の流れの見直し、噛みつきの起こりやすい時間帯には手すきの職員がフォローに入ったり、と何度も職員間で話し合いを持ち工夫してきました。
1歳前半から芽生えた自我は1歳後半から2歳にかけて大きくなり、「じぶんで」「じぶんが」と何でもひとりでやりたがったり、何でもひとり占めして自分の物にしたがったりします。見かねて大人が手を出すとそれが気に入らなくて、最後にはひっくり返って泣き出して手がつかない、といった光景がお家でも見られることがあるのではないでしょうか。
成長の一段階と分かっていても、「赤ちゃんのときにはあんなに可愛かったのに…」とため息が出そうな、大人にとっては、なかなかやっかいで手ごわいこの時期です。
ここで「しつけなければ!」と叱ることが多くなってしまうかもしれません。ところが、生まれたばかりのこの小さな自我がまっすぐ育つためには、大人から無理矢理押さえつけられたり、無視されたりするのではなく、認められ、受け止められながら社会のルールという枠組の中で生きていくことを学ぶことがとても大切です。
噛みついてしまったことを頭ごなしに叱られると、さらにひどく噛むようになることのほうが多いように思います。
すれちがいざまに何の理由もなく噛んだように思えても、その前に自分よりも力の強い子におもちゃを取られて、悔しくて気持ちのやり場が無く、ついそばにいた子に噛みついてしまった、噛みついてはいけないと分かっていても、まだセルフコントロールができず噛みついてしまい、後でいけないことをしたらしいと気がつくのです。
一人で3つも4つもおもちゃを抱え込み、ほかの子がそれを一つ取ろうとするのでガブっと噛んでしまう子もいます。
思わず大人は「1つぐらいなぜ貸してあげられないの?」と裁判官になっておもちゃを取り上げ、噛んだ子をただ叱りつけるということになりがちです。
子どもにとっては4つのおもちゃのどれをとってもみな同じく手放せない大事な物でとても一つぐらいとは思えないから、嫌だとなったのです。
「〇〇ちゃんにはどれも大事だったんだね~。そうか~。いけないってわかってても、ついガブってやっちゃたんだね。」と話しかけて、噛んだ子が落着くのを見計らってからこんな風に言ってみます。
「△△ちゃんのお手手見てごらん。こんなになっちゃって、くやしくて悲しくて痛い、痛いだよね。」「今度からはガブって噛まないようにしようね。」
理由の見えにくい噛みつきはあっても、理由の無い噛みつきはないのではと考えています。
噛みつかれた子の痛い、辛い、悲しい気持、噛みついた子のイライラした、悔しい気持ち、どちらにも丁寧に寄り添って子どもたちが言葉にできなかったところを代わって言ってあげることによって、子どもたちの生まれたばかりの自我や人格はホッと安心します。大人から嫌われたのではない、無視されたのではないということがわかって、やっとほかの子の痛みや悲しみも受けとめることができるようになるのです。そうやって初めて関わりあうルールを素直に学べるようになるのだと思います。
自分が尊重された経験のない子は決して他人を尊重することはできないといわれています。
1、2歳児では今日噛まれた子が明日は別の子を噛んだ、というようなこともよく起こります。園では噛んだ子、噛まれた子の双方の保護者の方に事情をお伝えするようにしていますが、これはお互いに声を掛け合うことで保護者の方々によい関係を作っていただきたいと思って行っていることです。
3歳に入り、言葉を伝え合うことができるようになると、自然に噛みつきも少なくなって、幼児クラスではほとんどみられなくなります。
子どもの育ちを見通しながら、保護者の方々同士、園の職員と保護者の方々との信頼関係を土台に、これからも噛みつきをなくす努力をしていこうと思います。